【前編】「沖縄に、子どもたちに記憶として残せられる文化を」沖縄芸大生インタビュー

2016年に、開学30年を迎えた沖縄県立芸術大学。これまでに、沖縄から日本、世界に芸大生を3300人以上、世に送りだしてきた伝統校です。

しかし、

そんな、芸術を発信してきた沖縄に住みながら、芸大生のみなさんを「住む世界が違う」と思い、接点を持たない、持てない人が多くいるでしょう。

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恥ずかしながら、ライターの水澤も12月10日から18日まで開催された「こらくりアーツ展覧会 in 安座真」内にありました、”こらくりアーツ・ワークショップ”で地元のみなさんとアート体験するまで、そう思っていました。

こらくりアーツ・ワークショップについてこちら

http://korakuri.com/2016/12/16/「安座真の未来を灯し続けるアートを、一緒につ/

今回、ワークショップを主体的に企画、運営されてきた美術工芸学部(染部門・織部門・陶芸部門・漆部門・絵画部門・デザイン部門)の学生に、当日の様子や今後の展望について、じっくりとお話を聞いてきました。

沖縄ならではのモノづくりを学び、次世代に文化を伝えていきたい。そんな、彼女たちの姿を前編、中編、後編としてお届けします。

「思い通りに、形を作れない悔しさがあるから、今も続けられる」

水澤:

海外では、漆器のことを「japan」と呼ばれるほど、日本独自の工芸だと思います。そもそも、漆とはどういうものでしょうか。

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工芸学科工芸―漆芸専攻の大学院生1年、兼島風希さん(左)と同じく漆芸専攻の3年生、島袋香子さん(右)

島袋:

漆器とは、漆の木から出る樹液、簡単にいえば植物の血をもらって、それをお皿などに塗っていき、仕上げていくものです。

兼島:

しかも、漆は天然素材だから、土の上に置いておけば土に還っていきます。そうした、自然のもので作り、自然に戻っていくサイクルは、今の時代にとって、貴重なエコシステムといえますよね。

水澤:

地球にやさしいとは……。そんな漆を使うモノづくりは、どのぐらい時間がかかるのですか。

兼島:

1年かけて作ります。

水澤:

えっ、1年もかけて漆器などを作られているんですか?

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島袋:

はい。私がこの漆を専攻したのも、1つの工芸に時間をかけて作りたいと思っていて、漆ならちゃんと物を可愛がってあげられると思ったんです。

兼島:

私は、自分たちの代から、沖縄芸大に漆専攻ができると聞いて、新しいことに挑戦したいと思って、専攻しました。

島袋:

もともと、兼島さんと私は同じ高校の先輩、後輩の仲なんです。兼島さんが、漆の1期生としてのびのびと制作されているのを見て、いいなと思いました。

兼島:

そうそう、いろいろ試しながら行えました。こちらは、私の卒業制作として作ったお皿です。乾漆(麻布で素地を作る技法)という技術で作ったんですけど、先生も私たちも初めての卒制だから、ルールも定まっていなかった。だから、サイズ感を気にせずに、自分が思い描くお皿を作ってみました。

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兼島さんが1年をかけて、作られた赤い漆器。通常より、2倍ほど大きさに仕上がりました。

兼島:

一方で、沖縄の気候や風土ならではの悩みもありました。とくに、湿気で布が歪んだり、幾何学模様にしたくても、グダッと形が崩れてやすい。

島袋:

私も、型に入れてお皿を作ったときに、形が変形してしまう。「お前はどうなりたいんだ」と漆に問いかけながら作っていました。

兼島:

それ、あるある笑 そういった漆器は時間をかけても、形にするのがすごくむずかしくて、いつも悔しい気持ちばかり。だから、理想のモノづくりのために、日々漆に向き合えると思います。

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子どもも、大人もはまった「漆でつくろう夜の水族館 in安座真」

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漆専攻の学生で企画した「漆でつくろう夜の水族館 in安座真」

水澤:

今回のワークショップは、授業とは異なり、時間と手間をかけられないですよね。安座真に住む人たちには、どのような漆体験をしてほしいと思ったんですか?

兼島:

去年のこらくりアーツに参加できなかったので、今年は漆として初参加でした。今回は、沈金という技法の簡易バージョンを考えました。沈金とは、こちらで用意した漆の手板に、ニードルという尖ったもので溝を掘り、そこに金粉を埋め込むものです。

島袋:

漆を塗るときに、どうしてもかぶれてしまう危険性があります。だから、金色で、見た目もいい。何よりも、安全に漆を楽しめる沈金になりました。

水澤:

なるほど。では、水族館というテーマにしたのはなぜですか。

兼島:

安座真の海から、水族館のインスピレーションを受けました。

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島袋:

しかも、手板が黒だから金が映えるんですよね。黒板にチョークでお絵かきするように、夜の水族館を遊んでもらえればと思いました。

水澤:

実際にワークショップに参加した人の反応はどうでしたか。

島袋:

みなさんが、とっかかりやすいように、事前に私たちが書いた図案も用意しました。でも、子どもは、好きな模様を組みあわせて、オリジナルのものを作っていて、すごく楽しそうでした。

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当日は、45名ほどの人たちが、沈金のワークショップを体験していました。

兼島:

大人のほうが、子どよりもデザインを凝る人が多かった。沈金って、深く溝をつけるほど色が濃く出るから、無心で板を掘り続ける親たちの姿が印象的でした。

島袋:

子どもは、意外と自分の中でイメージをしっかり持っている子が多かったかな。だから、親から「おぉー、いいじゃん」という声が上がっていましたね。

兼島:

実は、私は今までに子どもと触れあう機会が少なくて、すごく不安でした。でも、当日来てくれた子たちは、素直で、どんどん技術を吸収してくれるから、安心して教えることができました。

島袋:

あと、学校では、沈金を行うときに沖縄のぜんまい刀を使っているのですが、当日使ったニードルもいい味を出していたことにびっくりしました。

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学校で使う、ぜんまい刀は沖縄ならではの道具。細かい曲線を描きやすいのが特徴です。

兼島:

ワークショップを通して、今後の制作に生かせるところがあったのが収穫でした。私たちもすごく勉強になりましたね。

「沖縄生まれで、沖縄が好きだから」伝統工芸を継承していきたい思いとは?

水澤:

ワークショップを通して、お二人はどのようなことをやっていきたいと思いますか。

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島袋:

今回、ワークショップに来てくれた子どももそうですが、漆に触れたことがない人が多いと感じました。だから、沈金以外にも、さまざまな漆の工程に一緒に体験できる場を作りたい。

兼島:

後継者も少ないし、漆と触れ合う機会を増やして、担い手を増えないといけないしね。

島袋:

漆は、やっぱり自然に還っていく良さもあるし、ひとつを愛でることもできる。そういった良さを、みなさんの目に入れてもらう機会を1つずつ増やしたいですね。

兼島:

個人的なお話ですが、私は沖縄に生まれて、ずっと沖縄にいるから「私の役割はなんだろう?」と考えるようになりました。

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沖縄には、琉球漆器(りゅうきゅうしっき)という伝統工芸もあります。そういったものを沖縄芸大で学んできて、形にしてきたから、沖縄を少しずつ好きだといえるようになってきたんです。だから、漆というモノづくりを通して、地域に感謝する気持ちを自分の内に育てていきたい。

「藍染は、日常で“使える”ことからすごい」見る・触れる・使える染めの魅力とは?

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工芸学科工芸―染専攻の大学3年、内藤美月さん(左)と同じく染専攻の3年生、坂本希和子さん(右)

水澤:

紅型といった沖縄の染めは、琉球時代から続く伝統と言われています。坂本さんと内藤さん、お二人とも県外出身ということで、どうして染めコースに入ったのか、きっかけを教えてください。

坂本:

もともと、私の親が石垣島の出身で、昔から沖縄にはご縁がありました。その中で、沖縄の工芸、とくに独自に発展してきた「紅型」の鮮やかな色彩をみて、沖縄芸大に入ろうと思いました。

内藤:

私も同じ。修学旅行の時に見た紅型染をみて、内地にはない色合いだと思いました。きっと、空は青く、緑も青々しい、沖縄という環境でしか出せない色だろうなと思って来ちゃいました。

水澤:

授業でも紅型を習っているんですか?

坂本:

基本には型染をしています。この前、染めた着物を見てみますか?

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坂本:

装絵羽という技法で、全ての柄が1つのつなぎ目として仕上げています。だから、布を縫うところから、仮仕立てまで自分一人でこなすんです。

内藤:

約13mの布を染めるんですよ。そして、布を切って、組みあわせて、縫い合わせます。

水澤:

すごい。そうやって着物はできているんですね。

坂本:

工芸のすごいところって、それが使えるんです。世間一般でいうアートは、見るだけだと思われがちですが、着物なら見て、触れて、着れる。当たり前にように、日常に入り込めるところがいいなと思いました。

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内藤:

そして、染めは昔からずっと変わらないですよね。変わらない理由があるからこそ、まず知り、学ぶべきだと思うんです。

「引き出しから出てきた染めもの。そのときの感動をみんなにも味わってほしい」

水澤:

だから、今回のワークショップは、日常で使える「小風呂敷」をテーマにしたんですか。

坂本:

はい。私たちの代は、うちくいという沖縄の風呂敷が好きな子が多かった。そして、ワークショップが終わってもお弁当を包むとか、使えるサイズがいいなと思って、調節しました。

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みんなで、うちくいを体験した「藍で小風呂敷を作ろう」

坂本:

あと、風呂敷の柄に関しては、筒描き染めという、糊をクリームのように布につけて、模様を描いていく技法を行いました。しかも、古典柄をモチーフにしていたので「松竹梅・牡丹・桜」の模様を下書きとして用意しました。

内藤:

みんなが染めた風呂敷の布を、事前に50枚ほど縫ったのが大変だったよね。

坂本:

当時、学校の制作に追われていたから、みんなヒイヒイいいながらね。でも、安座真の皆さんにはきれいな布で藍染をしてほしかったから、布の四隅という細かいところまで縫っていきました。

水澤:

学校の課題も同時並行にやっていたんですね。ちなみに、ワークショップで、印象的なことはありましたか。

内藤:

子どもが、絵を描くための糊をなぜか興味をもってくれて、「この糊、食べるの?」って。そんな素直な感想に、可愛らしく思えました。

坂本:

私は、さくらちゃんという子が、「私の名前はさくら。だから、桜の柄を選んだの」とうれしそうに染めの学生に話していた姿を見て、うれしかったですね。

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「さくら」の模様を描いた、さくらちゃんの小風呂敷

水澤:

藍染をしたときの、みんなの反応はどうでしたか?

内藤:

ワークショップ当日は、天気にも恵まれて、すごく藍が元気だった。藍は機嫌がいいと、ぷくぷくと、泡立つんです。それを、子どもがじっと見ていたり、驚きという反応を示したことが新鮮でした。なぜなら、私たちは染めの授業で学び、当たり前の現象だと流していたことですから。

坂本:

あと、私たちは制作中になると閉鎖的な空間で、黙々と作業していくのが普通です。でも、こらくりアーツを通して、染めを知らない人に技法を伝えながら、一緒に制作すること、共同作業の難しさを感じつつも、勉強にもなりました。

内藤:

私自身、幼少期のときに藍染のワークショップに参加したことがあります。その後、時間が経ったときに、偶然にも机の奥にあったそのとき染めたものを見つけたんです。すごく、藍染の記憶が思い出させれて、うれしい気持ちになりました。そういった思い出とともに感動を包まれた記憶が、私にはあるんです。

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地元、安座真で藍染した記憶が、将来につながればと願うお二人

内藤:

今回、藍染を経験した子どもが大きくなって、いつか自分が染めた小風呂敷をみて、「また、藍染したいな」「これが、うちくいというんだ」と思い出してくれたら、これほど幸せなことはないですよね。

「工芸をふれる、入り口をたくさん増やしたい」

水澤:

今回のワークショップを通して、今後に生かせるところはありましたか。

内藤:

子どもたちの自由な発想にふれられたことがよかったと思います。いつのまにか、「花はこういう色で、形はこうだ」といった固定概念に縛られていたことに気づけました。

坂本:

私も、下書き用に牡丹の花を描いたら、もこもこしたデザインになって、子どもに「何の花だと思う?」と聞いたんです。そうしたら「雲の花」と答えたんです。すごい可愛かった。

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内藤:

そういう心を取り戻すきっかけになったと思いますね。

水澤:

今後、お二人はどういった道に進みたいとお考えですか。

坂本:

藍染や他の染めの技法も一発勝負なんですよね。布を置いて、下書きを描いて、糊を置いて、藍などで染めて、水で糊を剥がして、からやっと実物を見れる。その瞬間、うまくいったときの達成感があるからこそ、今も続けられるんです。

内藤:

制作中は、「こんなもの、2度とやれるか」と思うけど、水で洗って、染ものの完成をみると「わぁー、いいものができた」とね。次回作の意欲が湧くんです。

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坂本:

そうした苦しさと、その倍以上の楽しさをワークショップで経験してもらい、喜びの感情を共有したい。そして、人と染めの架け橋になりたいです。

内藤:

私は、2016年4月浦添にできた「P’s SQUARE(ピーズスクエア)」内にある壁画を描く機会をいただきました。そのときは、人材育成というテーマがあったので、人を成長する過程を表現しました。

今後も、壁画やワークショップをきっかけに、さまざまな人に工芸をふれてもらう。そして、親から子へと、モノづくりに興味を持つきっかけになり、工芸を学びたいと思える子どもたちを増やしていきたいです。

PLENTY Holdings × 沖縄県立芸術大学生

https://www.youtube.com/watch?v=htjMxJ5N8L0

今回、前編としまして、漆芸専攻と染専攻の学生にお話を聞きました。芸大生のアートを極めたい、といった側面だけを見ると距離を感じてしまいますが、「沖縄のために貢献したい」とか、「次世代に使えるものとして、モノづくりを残したい」と聞くと、グーンと私たちの身近な存在に感じてきませんか?

中編では、デザイン専攻と織専攻の学生にお話を聞いてきましたので、もっとそばに、アートを感じていただければと思います。